Knirps 90th Interview
クニルプス社 社長の90周年インタビュー
グスドプラー
世界展開する傘メーカー、クニルプス社を率いるヘルマン・ブルフリングスドプラーが語る、折りたたみ傘の開発秘話と思いとは?
男性の容姿の一部であった傘から伸縮自在の折りたたみ傘へ。
折りたたみ傘が発想されたきっかけ。ステッキとしての傘との棲み分けはあったのか。
19世紀において傘は男性の容姿の一部でした。だから、なくてはならないものだったのです。しかし、戦争で足が不自由となった ハンス・ハウプト (1898-1954)は、傘とは別に歩行サポートが必要でした。彼にとってこれは日々の大きな問題であり、それが、世界で初めてポケットに入る伸縮自在の傘を発明するきっかけとなりました。当時、傘の区分はとてもシンプルなものでした。1930年代には女性用傘・男性用傘があり、違いはサイズとデザインのみでした。その中で、発展の一途にあったファッショントレンドや研究分野で、ポケット傘は熱望されていたのです。
製造パートナーに“小さな傘”を信じてもらえるまで。
最初に折りたたみ傘を開発する際に最も難航したのはどういう部分だったのでしょう。
最も難しかったのは クニルプスの傘を製造したいというパートナーを探すことでした。クニルプスが発明された当時は、このような種類の他の製品がなく、多くの工場が"小さな傘"というものを信じていませんでした。しかし、クニルプスが有名になった途端、皆がコピー製品を作ろうとしました。
折りたたみ傘が初めて市場に出回った際の反応は、どのようなものだったのでしょう。
初めは クニルプスは傘のようには見えず、この新しい伸縮自在の傘の操作の仕方は知られていませんでした。大きくて操作が簡単な長傘に皆が慣れていました。そのため クニルプスチームは、ショーウィンドウでどのように開け閉めするのかを実演し、この新しい傘を宣伝しました。ショーウィンドウに大きなスクリーンを設置し、操作する人の影のみが見えるようにしました。この方法は 1930年代にはとても珍しく、多くの人を魅了しました。
高価格帯だからこそできる品質保証
クニルプスの傘が世界中で愛されている理由は、どこにあるとお考えでしょうか。
きわめて高品質の伸縮自在の小さい傘を初めて製作したということです。そのためクニルプスの最初の傘は、工場作業員の一週間分のお給料もの金額だったのです! 現在も、当社の製品は中-高価格帯ですが、だからこそ、最高の材料と熟練の技術によって品質を保証することができるのです。年をとった世代の多くの方々が、彼らの クニルプスを使ってきた良い経験を次の世代へと伝えていきました。そのため人々は私達を信頼しているのです。当社は、傘が最新のモデルのものであっても、すでに数十年前のものでも、今もなお修理サービスを提供しています。(※)
日本では傘は安価な消耗品と捉えられていますが、その点について、ご感想はありますか?
傘には安い消耗品もありますが、これらの傘は短い寿命の中でたくさんの材料を無駄遣いするということを大抵は意味しています。この場合、傘を頻繁に買い換えなければならないので、環境に害があり、お金の無駄遣いでもあります。当社は消費者が傘を最も必要とするときに、長持ちする・消費者を失望させない製品を提供したいと思います。そのため材料についても深く掘り下げて調べていく必要があるのです。もしあなたが製品をとても長く使用しても、誰かを傷つけたり、病気(化学製品による)にさせる部品は一切使いたくないと考えているので。
※日本国内では2年保証と交換サポートを行なっている
使う人の期待を超えるために組み立てる300個のパーツ。
クニルプス社が考える良い傘とは、具体的にどのようなものでしょう。
良い傘とは傘を使用する人の期待に沿う、または期待を超えるものです。これは使う人を保護し、心に晴れをもたらすことのできる、長持ちする製品を意味しています。この考え方はとてもシンプルですが、達成するのは簡単ではありません。一つの傘を作るには 300個を超えるパーツを組み立てます。それらのパーツの役割はそれぞれが異なります。当社は常に使用する人にとってより使いやすいよう、どのように傘を製作すべきかに焦点を当て、製品の重さ・操作にかかる力を減らすことに注目していますが、パーツを変更することで製品の寿命に影響を与えないかを常に確認しています。当社は検査することを決して止めません。なぜならこれら 300個中の 1個の部品が変更されたら、複数の他の部品にも大きな違いを生じさせてしまうからです。
ヘルマン社長はクニルプスとどのように向き合っているのか?長年クニルプスを愛用してきたライターの観点から問いかけます。
傘の材料と技術設計のバランスを良好に保つ。
折りたたみ傘を設計するに当たって、最も重要なポイントはどこなのでしょう。
重要なのは、使用される材料と傘の技術的設計において良好なバランスを保つことです。これらの正しい融合が極めて重要です。私は何かで "best is, if you cannot reduce it anymore.(これ以上減らすことができないということが最も良いことだ)" という文章を読みました。この言葉が、私たちの姿勢を説明しているように思います。もし私達が部品の数を減らすことができれば、他の部品のためによりスペースを確保することができ、耐久性が向上します。またこの考えは、製品を軽くすることにも繋がるのです。
クニルプスの発明は傘の重さとスペースの発明と言える。
携帯性のための小型化以外に、傘を持ち歩く際に便利な機能として重視されているのは、どういう部分ですか。
傘は重すぎではいけませんし、スペースを取りすぎてもいけません。クニルプスはこれらのルールを尊重しています。というよりも、クニルプスが発明されたことによって、これらのルールが発明されたと言えるかも知れません。折りたたみ傘が発明された当時に比べ、より様々な材質があり、より複雑な製造方法があります。だから、現在ではこれらのルールを達成できるより多くの可能性があります。また傘を畳む方法や、傘を開く方法にも多くの変更がされてきました。より簡単な操作方法で、より軽く小さな傘を目指すことによって、私達の傘をより良くすることができました。
現在のクニルプス製品は、どの程度理想の傘に近づいているとお考えですか?
最初の クニルプスとその後の クニルプスを比較し、さらに現行モデルを机の上に並べますと、当社は安定した良いやり方で進んできたと思えます。最新の製品を発売したらすぐに次の段階に何をすべきかを検討しますので、私達がどのくらいゴールに近づいているかは言い難いです。現行モデルは素晴らしいですが、次のモデルは現在の限界に勝るものでなくてはなりません。
折りたたみ傘のメカニズムに関して、最も改善の余地があると思われるのは、どの部分でしょう。
親骨です。親骨は最も大きな力を吸収しなければなりません。それでいて、スリムかつ軽くなくてはならない部品です。スチールから始まり、アルミニウム、グラスファイバー、カーボンそして新種のその他の材質へと変化してきました。今日では親骨は天蓋のサイズに応じた材料の混合によって作られています。
念の為、いつも持ち歩くTS.220。
現時点で最もお気に入りの傘はどれですか?
T.220 と TS.220です。2つのモデルはとても似ていますが、主な違いは以下の通りです。T.220は 8本の親骨があり、風の強い日にも安心して使えます。長い道のりを歩いている間中あなたを保護してくれるでしょう。TS.220は 6本の親骨があり、畳むと平らになります。そのためビジネスバッグに入れるにより適しています。念の為、私はいつもTS.220を持ち歩いています。そして、両モデルともセーフティシャフトが採用されています。これは予期せぬシャフトの飛び出しを防ぐとても良い機能なのです。
社長ご自身の、傘の扱い方のコツなどあれば教えてください。
とても混み合った場所で傘を開いて立っている人をたまに見かけます。そういう状況ですと頭上で傘を広げない限り、傘を開けるだけの十分なスペースがありません。これは特に自動開閉機能を備えた傘の場合なのですが、この機能は開くときのスピードを調整することができません。だから、混み合った場所では人々を驚かせ、傘で損傷を与える可能性がとても高いのです。まず傘を開くだけの十分なスペースがあるかをご確認ください。
使用後は傘を乾かさなければなりません。常に天蓋をきちんと畳み、ケースに戻してください。これは生地とフレームを保護し、製品をより長く使うことを可能にします。お急ぎの場合は、クニルプスのドライパックをお使いください。そうすれば家にも持ち返った後で傘を乾かすことができます。
これからのクニルプスが目指すところは?
これからも、クニルプスは素晴らしい伝統を守り世界市場を開拓していきます。私達は世界NO.1 の傘ブランドであり続けるだけでなく、どの天候(雨・晴)からも身を守る製品を持つブランドとして知られていきたいと思っています。
ありがとうございました。
クニルプス社の社長であり、ドップラー社の経営者。ドップラー社は、高級で高品質な雨傘・ガーデンパラソル・クッションのトップメーカー。クニルプスは、ドップラー社とともに運営され、発展をしている。
モノとその周辺、エンターテインメントや伝統芸能、飲食、生活雑貨、文房具、手帳、万年筆、音楽、絵画、デジタルエンターテインメントなどを題材に各種メディアで執筆、講演、企画などを行うフリーライター。